シグブラ
第80回:昭和な雰囲気の街ブラブラ

昭和な雰囲気の街ブラブラ

May 13, 2016

多摩川にほど近い停留所でバスを降りる。晩春というよりは初夏のような日射しが眩しい。低層の木造住宅が並ぶ一角を折れると、映画のセットかと思ってしまうレトロなマーケットがそこにあった。ゴールデンウィークだからなのか、普段からそうなのかはわからないが、朽ちかけ始めている数十メートルのアーケードには、営業している商店は数えるほどしかなかった。

マーケットに入る。目を引くのは通路の頭上にはためく万国旗だ。だいぶ色褪せているがいつ頃から飾られているのだろうか。古ぼけた看板との組み合わせがとてもいい雰囲気だ。

開いている商店は、総菜とお弁当を売る店、洋品店、豆腐屋、茶葉店のみ。ほかの店は木戸が閉められている。総菜店に入ってスポーツドリンクを購入する。「まだあまり冷えてないけどいいかい?」と気配りが嬉しい。店主に撮影に来たことを告げて、このマーケットのことを聞いてみた。

オープンしてから約50年だということと、当初は18店舗営業していたということ、最近は自分のように懐かしんで写真を撮りに来る人が多いとのことだった。今は買い物客より、万国旗の下を抜け道代わりに使う人がほとんどだそうだ。

話を聞き終わったあと、通路に出てスポーツドリンクを飲んでいると、ショッピングカートを引いたお婆さんがやってきた。「あら、写真を撮っているのね。昔はここも賑やかだったのよ。あそこの角は魚屋さんだったし、その先にあった店のコロッケが美味しかったんだから。うちの犬も喜んで食べていたわ」と当時の様子を説明してくれた。「最近はもう、アレねえ」と洋品店に入っていった。

明かり取りがある屋根の下に古ぼけた時計がかかっていた。盤面に穴があるということはネジ巻き式だろう。切れ味バツグンの SIGMA 50 -100mm F1.8 DC HSM | Art を SIGMA SD1 Merrill に装着して、チョイ絞りで撮影する。もう動くことはないが歴史を感じさせるその様を克明に写しとることができた。

アーケードの外に出る。相変わらず強烈な日射しだ。向かいに建つ直射日光に浮かび上がったトタン仕立てのアパートも実にレトロだった。どうやらこの周辺はまだまだ昭和が色濃く残っているようだ。

このまま近くの河川敷まで歩いて行くことにした。町工場や公営住宅を過ぎると、地方競馬の厩舎が現れた。川からの風に乗って、馬草の匂いが漂ってきた。ちょっと背伸びして中を覗いてみたが、馬の姿は確認できなかった。

土手は草刈りの真っ最中だった。夏に向けて伸び放題だった雑草を作業員がバリバリと刈っている。馬草の匂いに草いきれが混じり、なかなかワイルドだ。土手の上に立つと競走馬の練習場が見えたが、そこにも馬の姿はなかった。

旧ラジオ関東の送信アンテナ下では、少年たちがサッカーをしていたり、魚釣りをしていたり、犬の散歩をしたりと、過ぎ去ろうとしているゴールデンウィークをめいめいに楽しんでいた。もう少しすると梅雨入りなのだろうか。

駅の方に歩いていると、土手の上にある「馬横断注意」の看板が眼に入った。そういえば前回は町田で馬肉を食べたな、と思い出した。今日は暑かったし、日も傾いてきたので大衆酒場でビールでも飲んで帰るとしよう。カメラを肩から提げて、ブラブラと土手の上を歩いて行くことにした。


三井 公一

プロフィール

三井 公一
1966年神奈川県生まれ。
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービーなどで活躍中。
iPhoneで独自の世界観を持つ写真を撮影、その作品が世界からも注目されているiPhonegrapherでもある。
2010年6月新宿epSITEで個展「iの記憶」を開催。同年10月にはスペインLa Panera Art Centerで開催された「iPhoneografia」に全世界のiPhonegrapherの中から6人のうちの1人として選ばれる。
公式サイトはhttp://www.sasurau.com/
ツイッターは@sasurau

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